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弁護士コラム

駆け出し弁護士の奮闘記――その4“被害者との示談”

月に1度くらいの割合で、刑事当番弁護というものが回ってきます。

これは、逮捕・勾留された、つまり、犯罪容疑がかかって身体拘束された被疑者(あるいは被告人)が、弁護士を呼ぶように要請した場合、その日の当番として事務所に待機している弁護士が、要請に応じて出動し、その方の弁護に対応するというものです。

私もこれまでに数度出動していますが、その中でも印象に残っているものを挙げます。

被疑者の方(仮名:Aさん)は、酒に酔って妻(仮名:Bさん)を殴り、鼻の骨を折る重傷を負わせたという傷害事件で勾留されていました。名刺、職印、六法、被疑者ノートなど、刑事当番に必要な書類一式を持参して、Aさんに初回の接見(弁護人等の立場で面会すること)に行きました。

Aさんは犯行を認めた上で、「妻に謝罪したい。」等反省の言葉を口にしました。

過去の類似事例を見ても、被害者と示談できた方が有利な処分を受ける傾向になることは明らかでした。そこで、何とかBさんとの示談をまとめようと考えました。

妻のBさんの携帯電話の番号はAさんも覚えておらず、連絡をとるのに時間が掛かるかもしれないなあ、と懸念していたところに、何とBさんの方から「主人がご迷惑をおかけしました。」と電話が来ました。検察官か警察官から私の連絡先を聞いたようです。

ここからBさんとの交渉が始まりました。こちらが赴いて謝る立場ですので、ご自宅にも伺ってお話やご意向を聞きました。もしかしたら事務所に来ていただいた方がご負担は少なかったのかもしれませんが、成人した息子さんと同居されており、その方にもお話を聞きに行くことで、Aさんの背景事情を知りたかったというのもありました。

被害金額や今後の振る舞い方について、AさんとBさんの考え方は当然異なるものでしたが、20日弱の間に、Aさんに6回接見、Bさんに3回面会(うち2回はご自宅)、足しげく通うことで意見を調整し、何とか検察官が処分を決める前日に話をまとめて示談書を作成することができました。

その示談書写しを検察官へと提出し、結果、裁判にかけられることなく、不起訴処分(起訴猶予)を得ることができました。

労力を惜しまない大切さを実感した事件となりました。